フライドポテトを制するものは[後編]

以前のお店では、オーダーに即座に対応するために、低温揚げまで済ませておき、注文に応じて高温揚げをして提供するというオペレーションでした。

ある日、多めに準備していた半揚げのポテトが残ってしまいました。その夜のステージに上がることが出来なかった冷たい芋たちの処遇のことまでは、営業後の機能停止した脳では判断不可能であります。

“とりあえず冷凍”というレストランで最も極悪な行為を、シェフでありながらそそくさと遂行した私は、その日はもう何も考えずに帰路に着きました。


翌日。今日もフライドポテトを用意せねば…あっ。昨日の冷凍したポテトがあったな…。冷凍すると野菜は組織が壊れてグズグズになります。その認識のため、カチカチになって白っぽく凍った芋がよくもやってくれたな…という顔で冷凍庫のドアを開けた私を睨みつけたように感じました。

さて、この芋をとりあえず揚げてみよう。冷凍のフライドポテト自体はあるものだし…。と、期待はしていなかったものの揚げてみることにしました。


するとどうでしょうか。ガラス質のパリパリとした表面に、その内部はしっとりと柔らかく、じゃがいもの甘みも感じます。冷凍によって破壊された細胞は、まるでマッシュポテトのようになめらかになっていました。

芋はウェッジカットという厚切りにされていたことにより、中心にまで火が入るのに時間がかかり、それによって表面は長時間加熱されました。冷凍庫の中で乾燥し、霜が少し付着したことは、ガラス化を進めた一因でしょう。

揚げ油については、冷凍状態の固形物が大量に投入されたことにより、170℃付近から一気に140℃程まで温度が低下しました。そこから温度は回復していきます。

高温で加熱していた場合、中まで温まる前に表面が焦げたでしょうが、一度温度が下がることでゆっくりと温められたことは偶然にも良い結果をもたらしました。


料理を続けていると、この瓢箪から駒のような出来事が時として起こります。その駒がその後、継続して走れるようになるのかどうかは、料理人次第です。

事象を観察し、理論を用いて推測と実験を繰り返して理解を深めます。それがレシピとなります。


イタリアンレストランではあまり見ないフライドポテトですが、うちでは人気メニューです。手打ちパスタや、新鮮な野菜・魚介を使った前菜、インパクトあるメインディッシュと、さまざまなものを揃えていますが、最も印象に残るもののひとつがフライドポテトであるようです。

マクドナルドといえばあのポテト、というように、私もフライドポテトを情熱を持って作り続けていこうと思います。


フライドポテトの簡単なレシピ

1. テニスボール程の大きめのキタアカリのじゃがいもを選ぶ。風通しの良い暗所で、常温で一週間ほど置いておくのがベスト。

※冷蔵保存は糖度が上がり、焦げやすくなります。

2. たっぷりのお湯で串がすっと入るまで茹でる。ポコポコと穏やかに沸いている火加減で。皮が割れはじめる直前で取り出す。

3. 温かいうちに皮をむき、厚めの櫛形に切る。バットなどにクッキングシートをしき、芋同士がくっつかないように並べて、何もかけずに冷凍庫に入れる。完全に凍るまで一晩おく。

※表面を乾かすため、ラップなどはせずに冷凍します。

4. 鉄鍋(無ければステンレスでも)にたっぷりの油を入れ、160℃くらいに温めます。油はお好みのものを。私のおすすめは良質な米油です。

冷凍したままの芋をそっと投入します。最初はなるべくいじらないように。

5. 5分くらい揚げたら、芋をひとつ取り出してみて、表面が焼き固まっているかチェックします。白っぽいようならまだそのまま、色づいて固くなっているようなら串を刺して温まっているかどうか確認します。

6. よく色づき、中も熱くなっていれば、油の温度を上げて170℃ほどに高めます。油温を高めることで油切れがよくなり、さっくりとした仕上がりになります。鍋から引き上げて、すぐに塩をふり、熱いうちにどうぞ。


この方法ですと、冷めてもカリカリ感は持続し、しなしなになりません。ぜひお試しください。

揚げる際の鍋は鉄のもののほうがオススメです。私は初めはステンレスの鍋で作っていましたが、途中から中華鍋型の鉄鍋に移行しましたところ、仕上がりが違うことに気がつきました。

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実際に営業で使用している山田工業所の打ち出し鉄フライパン。ガス火専用ですが、揚げ物に最適です。

私のレシピのポテトの難しい所としては、長時間揚げるので鍋底に張り付いて焦げる危険があるというところなんです。焦げないように軽くかき混ぜるのですが、この時鍋底が平坦だとポテトが崩れやすい!中華鍋は湾曲しているので混ぜやすく、綺麗に仕上げられます。


IHコンロしかない…という方には、IH対応のものもあります。いずれにせよ、耐久性の高い鉄素材の鍋がベストだとは思います。

こちらは料理家有元葉子さんのブランド。ザルと油はね防止ネット付きがありがたいです。

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鉄鍋はお手入れが…という方には多層構造のステンレスならおすすめできます。

仕事でも家庭でも長年愛用しているのは、あの服部先生監修のジオプロダクトのステンレス鍋です。多層鋼のため、強度が高いのはもちろん、火のあたりが柔らかく、無水調理も得意です。審美性にも優れています。

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意外と重要な鍋選びについてもお話させていただきました。ぜひこのフライドポテトをご自宅で作って楽しんでいただければと思います!

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